光回線は戸建てでも「共有」|マンションが遅い本当の理由を現役工事人が解説
光回線は戸建てでもスプリッタで最大32分岐して共有しています。マンションが遅いと言われる本当の理由、ベストエフォートの正体、速度が出ないときに疑う順番を現役工事人が解説します。

「マンションは回線をみんなで共有するから遅い。速くしたいなら戸建てタイプ」。回線選びを調べていると、こういう説明をよく見かけると思います。
この説明、半分合っていて、半分間違っています。戸建てだって「共有」だからです。
この記事では、光回線が局からあなたの家までどう繋がっているのかを、電柱の上でその設備を実際に触っている工事人が解説します。読み終わる頃には、「共有」の本当の意味と、マンションが遅いと言われる本当の理由が分かるはずです。
結論:戸建ても「共有」です
光回線は、大まかに次のルートで繋がっています。
収容局(通信会社の局舎)→ 電柱の上の分岐点(クロージャ)→ あなたの家のONU
ポイントは真ん中の「分岐点」です。局から出た光ファイバーは、あなたの家まで1本まっすぐ来ているのではなく、途中のスプリッタという装置で分岐され、最大32件ほどの利用者で共有されています。これは戸建てでもマンションでも同じです。

つまり、あなたの家の光回線の正確なイメージは「局からの専用1本線」ではなく、「1本を最大32件で共有するグループの1席」です。
なお、利用者の多い大きめのマンションでは、局からの光ファイバーが2本、3本と増えて、複数の分岐グループに分かれていきます。「大規模マンション=全戸で1本を取り合っている」わけでもない、ということです。
スプリッタとは:光を分ける「電源のいらない分岐装置」
分岐点で使われているのが光スプリッタです。1本の光ファイバーを複数本に分ける装置で、面白いのは電源が一切いらないこと。電気的な処理をせず、光を光のまま分けるだけの、いわばプリズムのような受動部品です。
電柱の上にある黒いケース(クロージャ)の中などにこのスプリッタが収まっていて、私たちが開通工事で電柱から引き込んでいるのは、この分岐点からあなたの家までの「最後の1区間」です。
正確に言うと、一つのスプリッタで一気に32分岐しているわけではなく、二段構えになっています。NTT東西の一般的な構成では、戸建て向けの場合、まず局の中で4分岐し、その先の電柱上のクロージャで8分岐、合計4×8=32分岐という構成です。マンションの場合も考え方は同じで、建物のMDF内で4分岐、さらに8分岐されています。

では、なぜ「マンションは遅い」と言われるのか
「戸建ても共有なら、マンションが遅いと言われるのはデマなの?」というと、そうでもありません。遅くなりやすいのは事実です。ただし原因は局側の分岐ではなく、建物の中にあります。
マンションの通信は、共用部までは戸建てと同じ光ファイバーで来ますが、そこから各部屋までは建物の配線方式によって通り道が変わります。
- 光配線方式:部屋まで光ファイバー。条件は実質戸建てと同等で、速度も出やすい
- VDSL方式:部屋までは電話線。方式の上限が最大100Mbps程度で、ここが頭打ちになる
- LAN配線方式:部屋までLANケーブル。建物設備に依存
つまり「マンション=遅い」のではなく、「VDSL方式などの建物は、部屋までの区間が上限になって遅い」が正確です。光配線方式のマンションなら、戸建てと条件はほぼ変わりません。逆に言うと、戸建てに引っ越しても、局側の共有という仕組みからは逃げられません。
配線方式ごとの工事内容はタイプ別工事のやり方で解説しています。
「共有」だから起こること:ベストエフォートの正体
最大1Gbpsという速度は、共有グループ全体で分け合う帯域です。同じグループの利用者が同時にたくさん通信すれば、一人あたりが使える帯域は減ります。夜の21〜23時ごろに速度が落ちやすいのは、みんなが一斉に動画を見たりゲームをしたりする時間帯だからです。これが「ベストエフォート(最大◯Gbps)」という表記の正体で、戸建てでも起こります。
もう一つの誤解:「32分岐=常に速度が1/32」ではない
「32分岐なら1Gbps÷32で30Mbpsしか出ないの?」。これも誤解です。全員が同時に全力で通信し続けることは実際にはないため、普段は帯域に余裕があり、1つの家庭でも数百Mbps出ることは普通にあります。「常に割り算」ではなく「混んだときに詰まる」。道路の渋滞と同じイメージが近いです。
夜遅くなる、もう一つの理由:プロバイダ側の混雑
分岐の共有と並ぶ混雑ポイントがプロバイダ側の設備です。光回線網とインターネットの境目にある設備が混み合うと、回線自体は空いていても速度が出ません。
ここで関係するのが接続方式のPPPoEとIPoEです。従来のPPPoE接続はこの境目の設備が混雑しやすい構造でした。新しいIPoE接続は混雑ポイントを通らないため、夜間の速度低下が起こりにくくなっています。
「昼は速いのに夜だけ極端に遅い」場合、分岐よりもこちらが原因のことが多いです。契約プロバイダがIPoE(IPv6接続などの名称の場合もあります)に対応しているか確認してみてください。対応の有無や名称はプロバイダによって異なります。
速度が遅いとき、どこを疑えばいいか
仕組みを踏まえると、切り分けは次の順番が効率的です。
- 宅内側:ルーターの再起動、規格の古さ、置き場所、Wi-Fiか有線か。実は原因の大半はここです。宅内機器のチェックポイントは1ギガ回線の速度改善にもそのまま使えます。
- 建物の配線方式(マンションの場合):VDSL方式なら最大100Mbps程度が仕様上の上限。これは機器では超えられません。
- 時間帯:昼と夜で測り比べ、夜だけ極端に遅いならIPoEへの切り替えを検討。
- それでも遅い:回線側の問題の可能性もあるため、事業者へ相談を。
よくある質問
マンションから戸建てに引っ越せば速くなりますか?
今の建物がVDSL方式なら、その上限がなくなる分、速くなる可能性は高いです。ただし戸建てでも局側の共有は同じなので、「専用線になって常に爆速」にはなりません。今が光配線方式のマンションなら、劇的な変化は期待しない方がいいです。
分岐の数を減らしてもらう、専用の1本にしてもらうことはできますか?
一般向けの光回線プランでは、分岐数の指定はできません。仕組みそのものだからです。帯域を専有・優先するタイプの法人向けサービスも存在しますが、料金体系が大きく異なります。
引っ越したら同じ回線なのに速度が変わりました。なぜ?
分岐グループの利用状況、局からの距離や設備、建物の配線方式が変わるためです。同じサービス名でも、場所が変われば速度環境は別物と考えてください。
まとめ:「戸建て=専用線」ではない。でも悲観する話でもない
- 戸建てもマンションも、局からの1本をスプリッタで最大32分岐して共有している
- 「マンションは遅い」の本当の原因は分岐ではなく、建物内の配線方式(特にVDSL)
- 「32分岐=常に1/32の速度」は誤解。混んだときに詰まるだけで、普段は十分な速度が出る
- 夜だけ極端に遅いなら、分岐よりプロバイダ側(PPPoE)を疑ってIPoEを検討
共有と聞くとネガティブに感じるかもしれませんが、この仕組みのおかげで光回線は今の月額料金で使えています。仕組みを正しく知って、「どこで詰まっているか」を見極められれば、無駄な乗り換えや機器の買い替えはかなり減らせます。この記事がその助けになれば嬉しいです。



